教育界で進んできたダイバーシティの考え方教育界においても、20年ほど前からDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の理念を取り入れた教育が進められてきました。「みんなちがってみんないい」というスローガンのもと、多様性を尊重する価値観が徐々に浸透していきました。この理念を実現するため、能力の凹凸があっても学習機会が公平に保障されるよう、授業や教育環境の設計にユニバーサルデザインの考え方が取り入れられてきました。こうした教育環境の中で育ってきた世代が、現在の若手社員です。今の若手社員を理解する上で、彼らがどのような教育を受けてきたのかを知ることは、有効な手がかりになるかもしれません。教育現場におけるユニバーサルデザインへの取組教育現場では、ユニバーサルデザインの考え方に基づいたさまざまな工夫が行われています。代表的な例をいくつかご紹介します。【例】黒板の周囲に掲示物をなくし、児童が集中しやすい環境を整える大切なことは口頭だけでなく視覚的にも理解できるように伝える多くの人が見えやすいフォントを使用する自分が一番理解しやすい方法で読む(黙読、デジタル教科書を聞くなど)自分が一番得意な方法で板書をとる(デジタルノート、タブレットのカメラでとるなど)授業の流れをホワイトボードで提示し見通しを持たせる具体的で明瞭な全体指示を出すこうした工夫により、集中力、聞く力、見る力、読む力、書く力、想像・類推する力などに凹みがあったとしても、多くの子ども達が取り残されることなく授業に参加できるようになってきています。私たちは、身長や体力差など目に見える違いについては比較的自然に受け入れている一方で、目に見えない認知特性の違いについては、つい「努力不足」と解釈してしまいがちです。認知特性には当然個人差があります。教育現場では、こうした個人差を前提とし、凹んだ能力を補いながら学年相応の学習内容を保障するため、こうしたさまざまな取り組みが行われています。目指すゴールが同じなのであれば、あえて悪路を選ぶ必要はないという考え方とも言えるでしょう。このような教育環境で育ってきた若手社員は、仕事の進め方についても、具体的で分かりやすい指示や説明を求める傾向があるかもしれません。教育と職場の文化の違い教育現場、とりわけ小学校では、応用行動分析学(ABA)に基づいたさまざまな取り組みが行われています。例えば、「望ましい行動に対してポジティブフィードバックを行い強化する」といった関わりは、日常的に実践されています。また、間違った際には頭ごなしに否定するのではなく、子どもの意見を傾聴し、共感できる部分には共感したうえで必要な指導を行う関わり方も珍しくなくなってきました。社会に出ることを見据え、学年が上がるにつれてこのような支援は段階的に減らされていきます。それでも教育現場は、職場と比べるとナチュラルサポートが手厚い環境であると言えるかもしれません。さらに、昭和に義務教育を経験した世代とは異なり、アクティブ・ラーニングやキャリア教育を通じて、自分の意見を持ち、対話を通して考える経験を重ねてきた世代でもあります。このように、現在の管理職世代とは異なる教育環境で育ってきた若手社員にとって、業務効率や安全確保のために定められた手順や慣習を重視する職場文化は、戸惑いを感じる場面もあるかもしれません。そのため、初期段階では意識的にポジティブフィードバックを増やすことや、定期的な1on1など対話の機会を確保することが、若手の職場適応を支える有効な取り組みとなる可能性があります。若手社員への対応このような教育環境で育ってきた若手社員は、教育現場と職場との間にあるさまざまな違いに適応するまで時間がかかることもあるかもしれません。最近多くの企業で導入されているメンター制度やオンボーディング、1on1などは、こうした「社会人1年生ギャップ」を埋める取り組みとも言えるでしょう。当事務所では、産業保健職として新入社員の困り感を面談を通じて言語化し、その背景要因を整理したうえで上司や人事担当者と共有し、職場での関わり方の調整を支援しています。若手社員が安心して職場に適応できる環境づくりを通じて、早期離職の予防につなげていきたいと考えています。